2006年09月16日

別居して下さい。

H18.10月

 一睡もできない夜。動いていないと何をするか分からないので、お掃除をする毎日。激しい動悸。胸の痛み。止まらない涙。

 私は無意識のうちに、近所の不動産屋さんにサンダル履きのまま駆け込んでいた。
 
 ドアを開けると、8畳ほどのプレハブの事務所には書類の入った棚が壁に沿ってぐるりと取り囲んであった。ドアのすぐ左側にカウンターがあり、そう、50歳代くらいだろうか、ちょっと体格の良いメガネをかけた愛想の良い男性が座っていた。「いらっしゃい。」男性は私を見て、ただならぬものを感じたのか、椅子を勧め、お茶を出してくれた。

 私はなるべく興奮しないように、ゆっくりしゃべった。近所に住んでいるが、一人で家を出て、安アパートに住みたいので、探して欲しい。お金は母から借りたのである。保証人も母がなってくれるはずである事を話した。

 不動産屋さんはちょっと困った顔をして黙ったまま腕を組んだ。

「ん〜、あることにはあるけどね。そこは私の友達がやっているところだから、うるさいことは言わないよ。家賃さえちゃんと払ってくれればさ。でもねぇ。何年か前、奥さんと同じように来た女の人のアパートを紹介したら、その旦那さんがここに来て、『家の女房どこへやったんだ!』って大騒ぎになっちゃってさぁ。そこのところは大丈夫なの?」

「はい、今夜別居のことは頼んでみますから。それに、去るもの追わずの人ですから…。」

 私がそういうと、そのアパートの大家さんに電話をしてくれて、その晩私が夫と話して借りることになったら電話をすることにして家に帰った。

 その日の夜。お夕飯を食べ終わって後かたずけが済んだ後、娘二人はキッチンにいた。私は横になってテレビをいている夫に、テーブル越しから話しかけた。

「あのさぁ…。」 後が続かない…。怒鳴られると怖いから…。

「なんだよ。」夫は機嫌悪そうにそう言った。

「別居して欲しいんだけど…。」私は意を決してそう言った。

 しかし夫は、驚いた様子もなくテレビから目も離さず、起き上がることもせずこう言った。

「子供はどう言ってるんだよ。」

「夫婦の問題だから、まずはパパと話をしなきゃと思って…」私の声は益々小さくなる。きっと体も縮こまっていただろう。

「子供だよ、子供。子供に話をしろよ。」夫は自分の意見より子供にゆだねたのだ。

 私はキッチンにいた二人を呼んで、別居をしたい旨の話をした。まだ中学校1年生の次女は、泣いて嫌がった。でも、中学校3年生の長女は泣きながらも、「ママの好きなようにして良いよ。」と言ってくれた。

 夫はというと……。その話を聞いていたのか「子供がそれで良いなら別居でも何でもすれば良い。」と吐き捨てるように行った。

 夫はその間、一度も起き上がって私に向かい合ってはくれなかった。横になったままテレビから目をそらさずにいた。

 私は、夫と話がしたかった。もちろん子供とも話し合いは必要だったが、夫がもしかしたら止めてくれるかもしれない、やり直そうと言ってくれるかもしれない、優しい言葉をかけれくれるかもしれない。そんな一縷の望みを持っていたのに……。

 私はとにかく夫の家から出たかった。出ざるを得なかった。でなければ自ら命を絶つに違いない。早かれ遅かれそうなる。でも、兄夫婦には任せられない母はまだぴんぴんしている。娘たちが思春期になって、誰にも相談できない事を聞いてやれるのは私しかいない。失恋するかもしれない。受験に失敗するかもしれない。若くして妊娠してしまうかもしれない。道を外れた仲間ができて取り返しのつかない人生になってしまうかもしれない。そう思うと、生きていなければいけないんじゃないかと思ったから私は、あえて別居の道を選んだ。

 家を出るまでの数日間は、夫にも今までどおりお弁当を作り、夕食の支度をし、家事をした。アパートに入れるようになると、安物の電化製品を買って小さな城ができた。

 「今日、家を出ます。」朝私がそう言うと、夫は無言で仕事に行った。
posted by ゆい at 17:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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